2021/09/07 月詠

なくなってうるさかったと思い出す蝉の話でしたでしょうか
工場の外階段を降りてくる夏のひかりに照る作業服
亡くなった知らせは回覧板で来てだれのことだかわからない祖母
見ていたら魚が飛んだ川べりに夜はひかりの影で見つける
終わりまで結構ながいそれまでに街灯が減るこれからも減る
 
2021年未来12月号

2021/08/12 月詠

確率
台風のわずかにそれた翌朝に砂がざらつくはだしの床に
おばあさんと猫が寝ていて縁側が暑くなったら奥においでよ
ぶつかってくるひとがいた駅だったいまは本屋がなくなっていた
よく見たらだれもマスクをしていない店にしばらく迷ってやめる
裏口を開けておいたら内側にしずかに蝉の一匹がいる
 
2021年未来11月号

2021/06/07 月詠

クレーンがゆっくりあがる しばらくは放っておいた思い込みたち

蓮の葉のわずかに揺れる根元には枯れかけている蓮の実がある

中華料理をたくさん頼む会食にいつでも餃子をよろこんでいた

和歌山のともだちの言うなにもない家がわかってくる夜の道

2021年未来9月号

2021/05/16 月詠

退去した部屋のまくらの方角に植物園は月曜休み

糊付きの封筒があるはず 思い出しながら折るフタをまっすぐ

十四本のもみじがあっておしよせる岸辺のように帰属意識

冬の間にしまわれていたガラス器にかれらはメロン豆花を囲む

ビニ傘をさして台車を運ぶのは上からみるとどっちも濡れる

 

2021年未来8月号

2021/04/15 月詠

校庭のはしに畑とそのうえに日時計という気の長いもの

宿題を忘れたようなモスクワのとても大きな温水プール

鳴き声が引き戸のそこにいて動く回覧板がおいてある影

なくなればビルに通じる地下道も扉も出られなくなっていた

 

2021年未来7月号