なくなってうるさかったと思い出す蝉の話でしたでしょうか 工場の外階段を降りてくる夏のひかりに照る作業服 亡くなった知らせは回覧板で来てだれのことだかわからない祖母 見ていたら魚が飛んだ川べりに夜はひかりの影で見つける 終わりまで結構ながいそれ…
確率 台風のわずかにそれた翌朝に砂がざらつくはだしの床に おばあさんと猫が寝ていて縁側が暑くなったら奥においでよ ぶつかってくるひとがいた駅だったいまは本屋がなくなっていた よく見たらだれもマスクをしていない店にしばらく迷ってやめる 裏口を開け…
ロータリーの線の通りに停車するタクシーすぐに散らばっていく 神殿を模したつくりのカフェにいて焼失すれば壁の白さは 斜めがけカバンは不思議そちらからかけて重たくなる消費税 木の下を車が通る ピロティの人が見ていて窓から見える 2021年10月未来
クレーンがゆっくりあがる しばらくは放っておいた思い込みたち 蓮の葉のわずかに揺れる根元には枯れかけている蓮の実がある 中華料理をたくさん頼む会食にいつでも餃子をよろこんでいた 和歌山のともだちの言うなにもない家がわかってくる夜の道 2021年未来…
『共有結晶』の通頒が2021年10月末日に終了するとのお知らせを受けて、以前書いた文章を誤字等直して公開します。
退去した部屋のまくらの方角に植物園は月曜休み 糊付きの封筒があるはず 思い出しながら折るフタをまっすぐ 十四本のもみじがあっておしよせる岸辺のように帰属意識は 冬の間にしまわれていたガラス器にかれらはメロン豆花を囲む ビニ傘をさして台車を運ぶの…
校庭のはしに畑とそのうえに日時計という気の長いもの 宿題を忘れたようなモスクワのとても大きな温水プール 鳴き声が引き戸のそこにいて動く回覧板がおいてある影 なくなればビルに通じる地下道も扉も出られなくなっていた 2021年未来7月号
バスでしか来れない住宅街に寝て起きたのだろううぐいすが鳴く 信号に合わせて進む二車線のあいだにたぶんビニール袋 撤去日の看板によりどこからか撤去のひとが現れるもの ミャンマーの男の子からおすすめの二点透視図法のテキスト 2021年未来5月号
咲いているとだけわかった花の背が思い出すたび大きくなった 美術館広場のすみで餌をやるおじさんがいて集まってくる 急に芝生に植えてある木の一本はのぼらないでと書かれてあった 2021年未来4月号
同じくらい白いコートの二組が屋外展示で写真を撮った やわらかい光の自画の洋画家の留学先に雪降るという 問いながら理路整然と問いながら怒りが開くまでを涙は 朝にだけ歩いてむかうバス停の手前に薔薇があってわすれる 2021年未来3月号
工場の屋根のカラスが散っていく向かいのカフェでみんな見ていた 相談をもちかけながらこわくないようになんでもないように言う 水堀のほとんど動かない水をホテルの上から撮っている人 後輩を窓に呼んだらやってきて去年の花火を教えてくれた 2021年未来1月…
きみだって負けないはずさ 学生はそのうち帰ってゆく風物詩 自転車の段差の感じを覚えてる角の銭湯がなくなるらしい 車屋の大きな窓に応接のテーブルがあり椅子は一脚 暗くなり電気をつけた店を出てわずかに冷えた腕で帰った 2020年未来12月号
みずうみに電車で行った やまひとつ抜けた暗さは覚えていない Slackに海の浅瀬が光ってて35秒で終わってしまう 隅々へ正午を告げる放送とノイズがここもあったらしいね 海際で太鼓を叩くひとがいて思ってたより遠かった宿 暗くしてわたしの部屋がうれしくて…
クレーンが対岸の辺にかたむいてむかし丸太があふれたらしい 空き地から工事車両がゆっくりと曲がっていってその後を行く 改札の流れを横に行きたくて茎が斜めの水草のよう 2020年未来10月号
垂れ幕にビルの名前があるビルのここは涼しく天井がない 入ったらいちばん奥にいたひとが店員らしく確かめられる 隣席のどちらも二人組がいて教えるひとと笑ってるひと この店は造花を窓に置いていて閉店したら片付けている 高速道路の底まで伸びた街路樹を…
文脈をおぼえていない映像の枝から雪解け水を降らす木 プリンターに近寄るたびに白鷺が池の水面をつつくうつむき 温室のしずかな自動天窓の次の回までソテツは揺れる 行くまでは前の冬から変わらない植物園と密会をする 未来2020年4月号
まひるまの館内抜ける引率の列から声が明るくうねる 群生の池のほとりが青々と風に倒れた木に山のよう エレベーターは夜に降りればかつてないスペースインベーダーのひかりだ それぞれの予定が雨のように来て空いたところがその日にされる 未来2020年2月号
左手にお盆をのせて歩くとき君は盆地に住んでいるひと ふれるときびっくりさせないようにしてお金を払う仕組みを通る それぞれが川に向かって窓を閉じマンションはいま嵐を前に ニシキギにかぶさるように枝しげりかすれた札をぶらさげている 大荒れのススキ…
考えて部屋には茄子とすこしだけ体力の要るものを残した雨雲のようにむこうが夜になる 地元の旅と思えばいいか海だから西からずっと暮れてきて広がるまでを海に見ていた反対のロビーの窓に光ってる観覧車 知性 欲しいのかなあ夜の秋とてもすばやく訪れて明る…
船に乗れば小さな船とすれちがう 二十四時間表記の通りナオシマプランnoch、と少年叫ぶ井戸水は再現されたかつての家に南寺待つうちに信じるような暗闇の、あ、海がそっちにあるんだよなあ初孫をあなたは遠く問いながら韓国の子とひとしきり言うバラ園は薔薇…
白鳥のあいだをゆっくり抜かしてく一艘だけの手漕ぎのボートあなたはあなたに関係なくてみんなから次第に喋りかけられている大きめの郵便局のうえにある団地と同じ高さのこちら21世紀ってこと知っていた? その建物で投票があるそのあとずっと話してた、カフ…
海やまのあいだの浜に飼い犬や子供を連れてみんながあるく近くまで開いた枝を見るだろう目抜き通りの窓にいるひとのら犬がうろうろしてた豆腐屋が平たくなってなくなっていた 未来2019年9月号
たましいをそだてる庭の早緑の樹下にひかりが王冠になる花に手を振りながら撮るムービーをくりかえし見るわけじゃあないねあっちこっちに芝生があってなわとびの持ち手があって子どもたち跳ぶさくらばな咲ききらなくて明るんだ枝のかたちが透けている春粗い…
三階の窓だけ半分開いているカルチャービルに台車が入るかっこいい ラップトップを傾けるための小さな足を開いた3月12日怒りさえわからないなら仕方なく相槌を打つ うちのめすほど高速道路(こうそく)にうっすら曇っていた山がそびえるほどの裾野に降りる寝過…
ビルひとつ越えたところで高速道路(こうそく)の口が開いて車が走るわれわれの降り場はばらばらにあってひとつだけある緊急ボタンメソッドをわりと本気で信じてる 葬儀のまえに片付けだろうあなたがた賢しらにしていつまでも崖をうろつくなら かわいいか最…
冬天のモノレール去るはしゃいだりこどもの声が落っことされたりいつも工事の人が立ってた入り口に誰もいなくて工事は終わり動物の檻に降り立つ青鷺にあいつ動物じゃないんじゃんね終業の鐘に途切れたはなしからくつがえされたままの仮説はもういいよ、池の…
剪定のための車がひとめぐりして枯れ花を積み上げている先延ばすあなたの緩い悪習を季節がうつるように見ていたバイオリン教室だった家の木がなくて明るいセンサーライト新設のバスターミナルにはなくなったお洒落な天井を覚えてる?冬風に揺れない枝と幹だ…
軒先のならぶ小道を抜けていく会ったひとには挨拶をする天満橋には橋がありコーヒーの容器に目印をつけておく通りすぎずにひと休みひとたちが現れてくる朝の広場は細枝にあおあおとして茎の根が薄雲色の花をかかげるカーテンの裾のあたりが濡れていて夜のど…
きみはいま同じ言葉を持っていて水脈はいつできたのだろう読むうちにテキストに枝伸びてゆく電線が木を横切っていたかれたちは忘れさられた水脈を井戸に蘇らせる枯れた地離席したのちつめたさを纏わせてしおりのような身体が来る街路灯ひかりの雪の輪がかか…
表面に木漏れ日うつす細やかな檻にジャガーが寝そべっている花の木は熱帯花木 立て札を立てなおしたら苦しくなるか全開の手前で止めた窓をまた誰かが閉じるまでの外圧蔓薔薇と葉のからまりを見上げればしげる樹木の影のかたまり近況のさなかに不意に手渡され…