2020/06/08 月詠
垂れ幕にビルの名前があるビルのここは涼しく天井がない
入ったらいちばん奥にいたひとが店員らしく確かめられる
隣席のどちらも二人組がいて教えるひとと笑ってるひと
この店は造花を窓に置いていて閉店したら片付けている
高速道路の底まで伸びた街路樹をかすめて走っていく車たち
2020年未来9月号
2020/01/15 月詠
文脈をおぼえていない映像の枝から雪解け水を降らす木
プリンターに近寄るたびに白鷺が池の水面をつつくうつむき
温室のしずかな自動天窓の次の回までソテツは揺れる
行くまでは前の冬から変わらない植物園と密会をする
未来2020年4月号
2019/11/14 月詠
まひるまの館内抜ける引率の列から声が明るくうねる
群生の池のほとりが青々と風に倒れた木に山のよう
エレベーターは夜に降りればかつてないスペースインベーダーのひかりだ
それぞれの予定が雨のように来て空いたところがその日にされる
未来2020年2月号
2019/10/15 月詠
左手にお盆をのせて歩くとき君は盆地に住んでいるひと
ふれるときびっくりさせないようにしてお金を払う仕組みを通る
それぞれが川に向かって窓を閉じマンションはいま嵐を前に
ニシキギにかぶさるように枝しげりかすれた札をぶらさげている
大荒れのススキは風にかたむいて根の暗がりに鴨が隠れる
このまえの晩夏の道にあった木がおぼつかなくてバスを探した
未来2020年1月号
2019/07/26 月詠「直島へ」
船に乗れば小さな船とすれちがう 二十四時間表記の通り
ナオシマプラン
noch、と少年叫ぶ井戸水は再現されたかつての家に
南寺
待つうちに信じるような暗闇の、あ、海がそっちにあるんだよなあ
初孫をあなたは遠く問いながら韓国の子とひとしきり言う
バラ園は薔薇があるから遠景の山に言われるまで気づかない
夏休みに瀬戸内国際芸術祭に行った。そのあと京都へ
未来2019年11月号